tkinuiの日記

見聞きしたものの備忘録

死の真相 死因が語る歴史上の人物

ハンス・バンクル

後藤久子・関田淳子・柳沢ゆりえ・杉村園子 訳

新書社

1990年

 

ベートーヴェン、オーストリア皇妃エリザベト、その息子ルドルフ、レーニン、ヒトラー、フロイトケネディの簡単な伝記で、死因を含む健康状態に関する医学的考証が主。死因を分析したカルテとその解説が各章に載る。

著者がオーストリア人だからか、特に面白いのはルドルフの章。オーストリア・ハンガリー二重帝国皇太子ともなると、皇帝の命令により常に監視され、密偵されており、売春斡旋人や売春婦もこれらスパイにしばしば尋問され、それによってたとえば「シャンペンを飲んだ時だけ性行可能だった」とかまで筒抜けだったのが面白い。

(結局心の病で別の女と心中するルドルフだが、プライベートがこれほど皆無だったことがその原因に挙げられていないのは不思議だ。)

で、ルドルフの手によって死んだと思われるその女マリー・ヴェッツェラは皇太子が殺人者にならないように自殺したということになっているのだが、事件の真相を解明すべく、1988年に遺骨の発掘が計画されたらしい。しかし新聞の軽率な報道によってセンセーションが起こって失敗に終わった。「来るべき将来の研究者はこうした出来事から何かを学んでいただきたい」とは著者の言。墓堀りにそれだけの熱意かけてる人もいるんだなー。

そのほか興味深いのはフロイトか。とんでもないヘビースモーカー(一日に葉巻20本)でそのせいで口腔がんになって手術を繰り返していたとか、当時効能(害)が知られていなかったコカインを常用するとともに周りにも強く推薦し、のちにその中毒性が判明すると批判の矢面に立たされたとか。

1章の訳がひどくてくじけそうになるが、そこを越えれば最後まで一気。