ナチ占領下のフランス 沈黙・抵抗・協力
高校の世界史の教科書の中で、ナチス・ドイツによるパリ陥落から連合軍による解放までのフランスに関する叙述は少ない。僕の記憶が正しければ、「ペタンを首班とするヴィシー政権が成立した。ドゴールはロンドンで『自由フランス』を組織して亡命政権を作った。ドイツ軍に対してレジスタンス活動が展開された」程度。
本書はその間に起こった主な出来事を(たぶん)網羅的に集めており、その分人物の名前が多かったり同じ出来事が何回か出てきたりであまり読みやすいとは思わない。そのうえ、著者は京大法学部で院まで行っている割に日本語がところどころおかしい。なんとなく、もともと長かった文章を乱雑に削った(削らされた)ような印象を受ける。
のだが、全体としてはなかなか面白い。国民の中でペタンの人気がいかに高かったか、しかし実はドイツの電撃戦の成功を許したのは30年代に軍の中枢であったペタンらの責任であったこと、フランスでも狩られ、強制収容所に送られたユダヤ人への差別意識がフランス人の中にも根強かったこと(まあこれは「やっぱりそうか」の類)、ナチの飛行機はフランス製だった、ドイツ人に企業が接収されていく中で、企業買収に協力した銀行業界は大儲けしたなどなど、フランス人おもしろいなーと感じさせられる出来事の叙述がいっぱい。
ジャンヌダルクの取り扱いはやはりイシューだったらしく、愛国心を呼ぶとして演劇の題材に好まれた一方で「占領軍(=ドイツ)の排除」という主題にならないように(あるいは検閲に引っかからない範囲で、なるように)工夫されたとか。
しかし時代の流れとしては、レジスタンスの話も含めて、共産党と防共という対立が大きな軸になっていたようだ。独ソ不可侵条約によってフランス共産党は国内での威信をなくし、独ソ戦の開始までは自身の立ち位置がわからずに混乱していた。一方ヴィシーはコミュニストを敵視し、ドイツ軍の取り締まりの手ぬるさに反発するほどだった。
初期のレジスタンスはいろんな組織が存在していて、競争関係にあったらしい。スターリングラードを境に「あ、これドイツ負けるんじゃね」と思った一般フランス人がレジスタンスに協力的になる中、共産党が主導してそれなりに強力な抵抗運動になる。
そこへアフリカ植民地から領土を拡大していたドゴールがやってきて、「ここは俺の国よ」。ドゴールは自分ひとりでロンドンのラジオから抵抗を呼びかけるところから始まって、最後までドゴールをフランス政府首班にしたくなかったアメリカの思惑を乗り越えてパリ凱旋に至ったということで、フランス(というかドゴール)のアメリカへの対抗意識はそういうことだったのねと。
新幹線の中で「蟹工船」を読むにつけても、20世紀は社会主義の実験の時代だったんだなーという大雑把な感想に至った。
ナチ占領下のフランス―沈黙・抵抗・協力 (講談社選書メチエ)
- 作者: 渡辺和行
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1994/12
- メディア: 単行本
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