tkinuiの日記

見聞きしたものの備忘録

朝鮮 民族・歴史・文化

金達寿

岩波新書

1958年

 

これは名著。ちょっと古い本なので朝鮮戦争後の話が殆ど含まれないのが難点といえば難点だが、朝鮮半島の「民族・歴史・文化」がわかりやすく、コンパクトに、そして包括的に説明されているし、なにより文章が非常に読みやすい。

著者は朝鮮人だが、中国と日本に挟まれてその2か国に翻弄されてきた朝鮮を嘆きつつも、李朝以降は特に朱子学によって規定された不自由で後進的な社会、また国家存亡の時まで続いた官僚間の権力闘争という朝鮮の悪い面を激しく批判する。不勉強な私には、日本による侵略が進む中での大韓民国への国名変更すら、そうしたセクト的発想に基づくものだったということが大きな驚きであった。つまり、「韓」というのは南朝鮮の民族を指す言葉であって、日本・清・イギリス・ロシアら侵略者に対する、半島の民族全体の糾合による反抗という発想からはかけ離れた名前だったのだ。

考えてみれば高校生の時に、Koreaというとなぜ朝鮮と韓国の2つがあるのか疑問には思ったが、山川の教科書で3韓(馬韓辰韓弁韓)と箕子朝鮮を見て、まあこれらに由来するのだろうくらいにしか思っていなかった。うーん。

 

58年に書かれた本だが、著者は金日成に賛同するような印象を残しつつ、近い未来に朝鮮は統一されるだろうとつづっている。あるいはこれは単なる願望に過ぎない言葉だったのかもしれないが、かように聡明な著者であってもそう思っていたのならば、当時、社会一般で見ればそう信じていた人は相当多かったであろうと、現在の半島情勢を思いつつ慨嘆を禁じ得ない。

現在ということで見ると、為政者の権力闘争と農民(平民)の辛苦は今も一定程度続いている以上、こういう歴史の延長に今の日本との関係があるので、それは一筋縄ではいかないに決まっているという、まあ月並みな感想を得た。