tkinuiの日記

見聞きしたものの備忘録

ビルマの独裁者 タンシュエ -知られざる軍事政権の全貌

ベネディクト・ロジャーズ

秋元由紀 訳

白水社

2011年

 

そういえばビルマって国家元首の名前も知らんなーと思って読んでみた。

筆者はイギリスの人権活動家である。で、イギリスの人権活動家がビルマのことを書いたらこうなりそうだな、というのをそのまま形にした本だった。意外だったのはイギリス統治時代に対する批判的検討がほとんど見られなかったことくらいで。(調べたら筆者は国会議員志望らしい。むべなるかな。)

現代ビルマ史が簡単にさらえたのは収穫だったが、なぜビルマが現在のような状況になったのかは、あまりわからなかった。周辺国との関係に関する記述が薄い。周辺各国に対してどうふるまったのかこそ、「独裁者」の振る舞いで興味をひく部分だと思うのだけれど。たとえば、少し前まで激しくちょっかいを出してビルマが軍事国化する大きな要因になっていた中国が、最近では政権への第一の武器供給者になっているとあり、その間の記述がないのでどんな意図が両者にあったのかとか全然わからない。

で何が書いてあるかというと、タンシュエの生い立ちからの経歴、その性格について言われていること(噂)、彼の悪逆非道の行いの数々が主である。

民間人の殺戮やレイプを擁護する気はもとよりないが、ただこの本からわかるのは、欧米から嫌われた国の指導者がどんな風になじられるかということだろう。

 

 

 

ビルマの独裁者 タンシュエ ─ 知られざる軍事政権の全貌

ビルマの独裁者 タンシュエ ─ 知られざる軍事政権の全貌

The Others

アレハンドロ・アメナーバル

2001年

 

Agora(アレクサンドリア)のラストに衝撃を受けて、アメナーバル作品をとりあえず全部見きろうと思い、この作品が最後に残ったのだが、ちょっとがっかりな映画だった。

第二次大戦終わりごろ、イギリスの小島の館を舞台にしたスリラーなのだが、この映画の欠点は、スリラーなのに落ちが読めてしまうということ。そもそも私、幽霊もの全般、子供だまし感がしてあまり好きではないのだが、それで落ちまで読めちゃうと、ねえ。

アマゾンレビューはどんなもんじゃいと思ってのぞいたら112件もレビューがついていて、ああつまりそういうことかと思った。

私のように心が薄汚れている人にはお勧めできません。「ニコール・キッドマンものっそいきれいだなー」で終わる。

 

まとめ。

Agora>海を飛ぶ夢=Tesis>Open your eyes>Others

 

アザーズ [DVD]

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日露戦争勝利の秘史 敵中横断三百里

1957年

森一生

脚本 黒澤明 小国英雄

 

黒澤明をよく見ていたら、お勧めで出てきて、黒澤明が戦意高揚に噛んでたのね、これは見ねば見ねばと借りてみた。wikipediaで見たら57年作だが戦前に黒澤が脚色したとあるから、まあこの認識はちょっと違ったけれど。

 

日露戦争奉天会戦の裏で、露軍の動向を探るべく派遣された立川挺身隊(偵察部隊)を描いた映画。「命がけの任務だ、6人のうち1人でも帰ってくればよい」と伝えられ、児玉源太郎が「ええい立川隊はまだか、6人とは言わん、せめて1人、露軍の情報を持って帰ってくれればすぐに決戦だというのに」とかそんなことをのたまいながらやきもきするシーンまであるので、見ている側としては6人のうち誰が生き残るんだろうかと思いながら見ることになる。

で、死亡フラグをビンビンに立てていた沼田がやはり最初に死ぬので、次は誰だ、となるのだが、なんとなんと、そこから残り5人全員が生還するのである。

いやこれは、拍子抜けというより観ているものの裏をかく展開(そんなわけない)。

途中居眠りとかしてしまったけれど、立川隊長が前触れなくロシア語を操ったり、ロシア兵が間抜けだったり、馬賊の親玉となって工作する将校の語りから、中国人のことを当時の日本人がどう捉えていたかが伺えたりと、意外と突っ込みどころや発見が多い。

ほめているのかけなしているのかよくわからない感想になってしまったけれど、そういうの好きな人には面白い映画だと思います。

 

ガンジー自伝

蝋山芳郎 訳

中央公論新社

 

子供時代から1920年の会議派ナグプル年次大会までを記した自叙伝。面白いのは前半で、引っ込み思案のヘタレ青年がせっかくイギリスに留学したのに弁護士として使い物にならず、たまたま行くことになった南アフリカで人種差別にあってボコボコにされたりする中で立派な闘士になっていく過程に引き込まれる。一方後半は老成のせいかガンジーの行動に落ち着きというか貫禄が出てくるのと、中身が会議派で地位を確立するまでの話でなんとなく盛り上がりに欠ける。

もちろん子供の時から信念をはぐくんでいく様子も描かれてはいるのだが、えぇっ、と思うところもあって、特に興味深いのが、父親がなくなった時の話。当時すでに結婚していたガンジーは、父親が亡くなる直前まで脚をさすってやっていたのだが寝床に戻ることにし、そこで寝ていた妻をみて…という。

訳が良いし、注も充実している。ガンジーは修行の一環として妻と相談のうえセックスを絶つのだが、注を読むと何度か断念して再開していることがわかる。

やっぱインドはすげーな。

 

ガンジー自伝 (中公文庫BIBLIO20世紀)

ガンジー自伝 (中公文庫BIBLIO20世紀)

毒殺の世界史

フランク・コラール

原書房、2009

 

ジャケ借りしたが、がっかり本だった。何ががっかりかというと、

(1)「世界史」と銘打ってはいるが、内容はすべて西洋史

(2)毒殺の詳しい手段の記述が殆どない。(刃物の片側に毒を塗る、程度で、例外的に詳しかったのが14世紀イタリアでの2件、1345年に小間使いが浣腸に仕込んだ毒、というのと1414年にワギナに毒を塗った若い娘とベッドをともにした、という記述であった。これは面白い。)

(3)政治の中で毒殺が誰に、どのように用いられ、どのように見なされてきたのか、ということについて書かれた本なのだが、大体最初の数十ページを読めば言いたいことがわかる。要は、「非力なもの(特に女)が使うもので、聖職者は剣で殺しちゃだめだから毒殺が主流で、でも使うと卑怯だと思われるから誰々が毒殺した/企んだという風説を流布することも行われていて、、、」という話。

(4)原文が悪いのか訳者のせいもあるのか、読みにくい。そのせいで、時代や地域による変化というこの本が伝えるべき部分が全然伝わってこない。

 

西洋政治史オタは読んでみてください。それ以外の人にとっては地雷。

 

毒殺の世界史 上 ~アレクサンドロス大王からリチャード獅子心王まで

毒殺の世界史 上 ~アレクサンドロス大王からリチャード獅子心王まで

毒殺の世界史 下 ~教皇アレクサンデル6世からユーシェンコ大統領まで

毒殺の世界史 下 ~教皇アレクサンデル6世からユーシェンコ大統領まで

禁じられた遊び

1952年

フランス

ルネ・クレマン

 

 

こないだ読んだ「ナチ占領下のフランス」に紹介されていたので観てみた。冒頭のシーンでは、パリから脱出する人々の車列を、ハーケンクロイツの戦闘機が襲うのだが、説明は「1940年6月」、とテロップが出るだけで、現代の日本人が予備知識なしに見たら何のことかわからないのではなかろうか。

ただそのあとの話はとてもわかりやすい。冒頭シーンで両親を亡くす幼いポレットが、田舎の農家で引き取られ、年の近いミシェルと「禁じられた遊び」をする中で心を通わせる、という話。ポレットの境遇と制作年からして反戦映画ということになるのだと思うが、むしろ、くっきりと描かれている、当時のフランスの田舎の貧しさと、隣家とのいさかいや頭の固い父親・キリスト教の影響力の強さといった農村社会の姿から感じるものが多かった。

一人で見るにも、誰かと一緒に見るにもいい映画だと思う。映像も演技も脚本も良かったが、何より音楽が素晴らしかった。「愛のロマンス」はすぐにアマゾンでポチりましたとも。

禁じられた遊び(トールケース) [DVD]

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愛のロマンス

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