tkinuiの日記

見聞きしたものの備忘録

飲酒文化の社会的役割

2007年

Gerry Stimsonら

新福尚隆 監修

 

いろんな国の飲酒文化を知ることができそうだなーと思って読んでみたら、シリアスな学術書だった。

中身としては、アルコールっていろんな国で特に低所得者・若者・男がバカ飲みしていろんな問題起こすよねー、対策難しいよねー、でも禁酒法みたいなのはあんまり良くないから、関係者が協力して、問題を起こすグループにうまく働きかけるといいよねー、でもお酒って色々いい面もあるし否定だけするのもどうかと思うなー、みたいな感じだった。

いやちょっとまとめすぎた。もうちょっといろいろな論点が提示されているのだが、あんまり面白くないのでだいたい忘れた。

細かい話は面白いのが多い。スリランカは自殺率が高いが、その多くがどぶろくのアル中だとか、旧ソ連圏ではアフターシェーブローションや香水や薬用チンキ剤が飲まれているとか、外科チームが手術終了後に外科用アルコールを分け合うとか、航空技師がミグ戦闘機のタンク除氷剤を飲むとか、R2ロケットの燃料がエタノールからメタノールに変更されたのは、警備する人がエタノールを飲んじゃうからだったとか(まさに、おそロシア)。各種データも興味深くて、血中アルコール濃度の国別上限値を見ると0.0mg/ml(エチオピア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアなど)~1.0mg/ml(アルバニア)まで様々なのだが、ページの隣には0.8mg/ml以上だと「乗り物の運転・操縦が困難になる」と書いてある。基準値が0.8mg/ml以上の国は実は全体の半分くらいあるのだが、そんなんでいいのか。ちなみに日本は0.3mg/mlである。ご安心めされい。

各国の飲酒ガイドライン(アルコール摂取量の目安)の表もあるのだが、オーストラリアが笑える。「一日40gを超えない。週280gを超えない(男性)」。週の方いらないだろうと。ちなみにほかの国は軒並み一日の目安摂取量が20~30g程度であり、オーストラリアの国家的酒好きが際立っている。

 

飲酒文化の社会的役割―様々な飲酒形態、規則が必要な状況、関係者の責任と協力

飲酒文化の社会的役割―様々な飲酒形態、規則が必要な状況、関係者の責任と協力

  • 作者: ジェリースティムソン,マリーショケ,プレストンギャリソン,マーカスグラント,新福尚隆,Gerry Stimson,Preston Garrison,Marie Choquet,Marcus Grant
  • 出版社/メーカー: アサヒビール
  • 発売日: 2007/05
  • メディア: 単行本
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アウンサンスーチー 変化するビルマの現状と課題

田辺寿夫 根本敬

2012年

角川書店

 

 

こないだ読んだ「ビルマの独裁者タンシュエ」がちょっと古い本だったので、その後どーなんと思って読んでみた。

本文中であからさまには書いていないが、日本としては有望な市場だし、88年まではそこまであからさまに悪いことをしていたわけじゃないから、ビルマとは仲良くしておきたかったのだが、欧米の横やりもあってなんとなく上手くいかなくて、そのうちに民主化運動の象徴としてアウンサンスーチーが出てきたことで軍政の態度が硬化して、、、、というのがなんとなくわかった。スーチー以後は日本政府が年間数十人しか認めていない難民の多くをビルマの少数民族が占めているというのはしかし、軍政と(本当は)仲良くしたい日本にとってどういう意味があるのかがわからない。前半がそういったところを客観的に捉えようとする上智の教授によるもので、一方後半は在日ミャンマー人を支援しているらしい人によるというちょっとちぐはぐな構成であるのもなんとなく話が見えてきづらい原因であろう。

天国と地獄

1963年

黒澤明

 

スコセッシの推薦映画39本というのを見かけてそれを観ている。以下ネタバレあり。

 

 

天国と地獄は人質事件を題材とした映画で、三船敏郎演じる権藤が犯人に身代金を渡すべきか葛藤する前半のあと、特急こだま号で撮った身代金受け渡しの山場があり、そのあと仲代達矢演じる戸倉警部が物語の中心になって犯人を追い詰めていく。身代金を投げるときの三船の演技の迫力がすごいのもあって、前半と後半のつながりがあきらかに弱い。どうも前半は原作があるらしく、後半は黒澤の創作らしい。なるほど。

で、前半の緊張が切れて、なんとなく眠くなってきたところで、山崎努演じる犯人が、ヘロインの効き目を試すためにドヤ街の薬中の女に試し打ちさせるのだが(どうでもいいが2008年のWカップの川島以来「ドヤ顔」なる言葉がはやりだしたとき、最初僕は「ドヤ」をドヤ街のドヤだと勘違いしていて、ドヤ街っぽい顔ってどんなだろうと不思議に思っていた)、このドヤ街のシーンが非常に良い。ドヤ街というと「あしたのジョーの」の薄汚れてはいるが牧歌的なイメージしかなかったのだが、このシーンを見るとそんな愉快なものではないということがわかる。明らかに体を売って日銭を稼いでいる女たちが陰鬱な面持ちでたむろしており、中にはヘロインの禁断症状でおかしくなっている者もいる。

犯人が権藤に一方的に恨みを募らせて、ほとんど気が違っている様子にも、時折ニュースで流れる理解の及ばない犯罪の当事者たちについて考えさせられるものがあるし、なるほど面白い映画であった。

 

天国と地獄【期間限定プライス版】 [DVD]

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お気に召すまま

お気に召すまま−シェイクスピア全集 15  (ちくま文庫)

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blowup

ミケランジェロ・アントニオーニ

1966年

 

1960年代のロンドンを舞台に、人気写真家のある1日(と少し)を描いた映画。主人公の行動が支離滅裂なのと場所がロンドンということで、最初ドラッグ映画なのかなーと思ったが違った。現代美術の映像作品だった。薄味目の。映像がきれいだし、リアルな世界を扱っていながら常に非現実的な印象を受け続ける。

出てくる女がみんな似たような髪型・似たような顔で全然見分けがつかない(それも監督の狙いなのかもしれないが)こともあって、主人公を演じるデヴィッド・ヘミングスの素晴らしさが引き立つ。

これは人にお勧めできる映画。

 

欲望 [DVD]

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大いなる幻影

ジャン・ルノワール

1937年

 

第一次世界大戦において、ドイツ軍の捕虜となったフランス将校の姿を描いた映画。フランス軍/ドイツ軍(/イギリス軍)、貴族/平民、ユダヤ人/非ユダヤ人、ドイツ人/フランス人、金持ち/庶民と様々なわかりやすい区切りが存在していて、それぞれが当時の、いや今もそうなのだろうけれど、誰にでもわかるヨーロッパでの対立軸であったのだなあということがよくわかる。ピエール・フレネー演じるド・ボアルデュー大尉と、シュトロハイム演じるドイツ軍大尉が明晰・優秀な軍人であり魅力的な役なのだが、この2人は貴族という設定である。貴族というのは優秀であると、当時一般に見なされていたのだろうか。

上に挙げたような対立軸を一々示すためなのか、それともジャン・ルノワール自身の体験をできるだけ余さず描きたかったからなのか、映画としては色々な場面を詰め込みすぎな印象を受けた。まあその分内容が濃いともいえる。

テーマとして、誰もが意識のうえで共有している差別/区別を、戦争という題材をとってその超克を表現するというのはなんとなくベタな話だなーと見ていて思ったが、調べてみるとどうもこの映画がそのプロトタイプらしい。なるほどなるほど。

大いなる幻影 [DVD]

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怪傑デカルト―哲学風雲録

ディミトリ ダヴィデンコ

竹田篤司 中田平 訳

 

デカルトの生涯を題材にした小説。

原文がそうなのか、それとも訳者のせいなのか、ちゃらんぽらんな文章が特徴的。そしてデカルトは徹底的にちゃらんぽらんな男として描かれる。

 

デカルト自身がどのような人生を送ったのか、フィクションも交えられているとはいえ知ることができたのも良かったが、むしろ興味深かったのは17世紀前半のヨーロッパ世界のありさまだった。

例えば、悪魔との淫行を語らせたのちに、穴という穴に針金(だったっけ?)を刺しまくる魔女裁判であったり、30年戦争における勝者による略奪行為であったり、嫉妬深いリシュリューの姿であったり、スウェーデンを一大強国にのし上げたグスタフ・アドルフの娘、スウェーデン女王クリスティーナがバイセクシャルでしかもヤりまくっている様であったり。

 

個人的には文章が読みづらかったが、中身は面白い。

快傑デカルト―哲学風雲録 (Planetary classics)

快傑デカルト―哲学風雲録 (Planetary classics)